vol.2 ~ピッティへの長い道
今思えば、偶然のチャンスであったピッティ視察から戻り、自分達のオリジナルをつくろうー という決意新たに、糸作りを始める。
ピッティで、また視察に訪れたイタリアの工場で、愕然とさせられたのは、彼らのトレンドを自分たちが牽引しているという誇りと、ものづくりに対する発想の違いだった。
この"発想の違い"は、日本がいろいろなー 特にクリエイションという場で西欧諸国を追う状態をつくっている根源ではないかと思う。
既存のものからできる糸をつくるのではなく、ないものを形にする為に、限りないイマジネーションを働かせ、それに向かう。出発地点における目標設定の仕方が既に違うのではないだろうか。
それはイタリアの工場で見た、改造に改造を重ねた機械に顕著に現れていた。 今までになかったもの、 新しいもの、 を創りだす為の進化の象徴、 とでもいおうか。
自分達がしてきた"糸づくり"の発想を、根底からくつがえす作業が、始まった。
第一歩は、自分が子供の頃から工場で働いてくれている、己が培ってきた技術や方法に、確固たる自信とこだわりを持った、技術者達との戦いだった。
こういうのを創りたいんだけど!
と糸の見本を持っていくと、
いや、これはできない。
と返される。以前はここで引き下がっていたが、
何でできないの? と聞くと、
うちのギアーではサイズが合わないから無理。 と言う。
じゃあ、サイズが合うギアーを別注でつくらせてよ。
いや、大きくなりすぎて床にぶつかるかもしれない。
なら、床に穴掘ってよ。
彼等には彼等の方法・定義があり、その形を外れるものに、取り組む気はなかったのだろう。しかし、どうしたって食い下がって離れない私の熱意に、遂にー 彼等が動いてくれた。
何週間かたった後、
ほら、できたよ。 となんと、注文の糸を持って来てくれたのだ!
新しいギアーを作ったの? ああ、作った。
床に穴掘ったの? いや、掘らなくて済んだ。
できたじゃないか! ということで、一気に企画室のモチベーションが上がる。
ここからMASAKI オリジナルの糸づくりが、加速していった。